重厚なチェインメイルは太陽の光を一身に受けて青光りしている。その鎧に似合わない憂鬱な表情の男は、顎の下で組んでいた手を解き興味深そうにこちらを眺めた。
「よう、あんた。よくきたな。新しい奴は…久しぶりだ」
受け身の反動でよろけながら男の方へ近寄る。言葉では歓迎を口にしているが、その表情を見るに新参を快く思っているわけではなさそうだ。それを裏付けるように、男は既に私の顔から目を背け、憐れむように呟いた。
「どうせ、あれだろう?不死の使命がどうとか…皆一緒だ。呪われた時点で終わってるんだ。不死院でじっとしてればいいものを…ご苦労なことさ」
そのぼやきは単なる皮肉というより諦観の響きを伴っている。話ぶりから察するに、不死の使命について詳しそうだ。
「お前は誰?ここは…どこなの」
「嬢ちゃん、何も知らないのか。ここは“ロードラン”。古い王たちの地。そしてお前の…墓場になる場所だ。ハハハハッ…」
本当にここが“古い王たちの地”なのか。まるで夢か作り物みたいに青く澄み渡った美しい空、人を丸呑みしそうな大ガラス…そして何よりとうに人の世では失われた太陽。神など信じていなかったが、こんな現実離れしたものを次々見せられた後では、神々がいるという話も荒唐無稽なお伽話ではないように思えてくる。未だ状況が飲み込みきれていない私をよそに男は話を続けた。
「何も知らないところを見ると、騎士や聖職者じゃなさそうだなぁ?」
「…誰だっていいでしょう。それより、不死の使命って言った?」
「ああ、やっぱりあんたもそれか。鐘を鳴らしに行くんだろう?」
不死院にいた騎士もそう言っていた。目覚ましの鐘を鳴らし、不死の使命を知れ…だったか。
「暇なんだ、教えてやるよ。目覚ましの鐘ってのは、ふたつある。ひとつは、この上にある不死教会の鐘楼に。もうひとつは、この遥か下にある病み村の底の古い遺跡に。両方鳴らせば、何かが起こるって話だが…どうだろうね?少なくとも俺は、その先の話は、聞いたこともねえが…」
そう言って男はため息を吐きつまらなさそうに私の足元に視線を移した。口を挟ませる余地もなく言い終えたその台詞は、芝居がかっているという訳でもないのに妙に小慣れた雰囲気があった。まるで言い慣れているような…。
「…なるほど。ご親切にどうも」
私の声を聞き、男は上から下まで値踏みでもするかのように眺めた後乾いた笑みを溢した。言葉にしていないだけで“使命など果たせるわけがない”とでも言いたげな口元だ。
「嬢ちゃん、見たところあれだな。盗人だろう?目つきで分かる…物欲しそうなはみ出し者の目だ」
「な…」
確かに今は不死狩りから逃げた時そのままの旅装束で、身綺麗だとは言えない。だとしても一目見て私を盗人だと看破したのはこの男が初めてだった。驚いて言葉を失う。立ち居振る舞いや言葉には気を付けてきたつもりだった。それを目付きだけで見抜かれるなどとは…考えたこともなかった。それだけこの男が多くの不死人を見てきたということだろう。短刀を持つ指先に力を込める。口封じした方がいいだろうか。衛兵相手なら迷わずそうした。そんな私の思惑を知ってか知らずか…男はなおも続けた。
「図星か?でも、俺に手は出すなよ。痛い目を見ることになる。なに、心配しなくてもそこら中に死体があるんだ。宝探しは、せいぜい他所で頑張るこった…」
見抜かれた以上素性を隠すつもりはない。しかし、言われたままというのも癪だ。同業者にそうするように、手心を加えた世辞を贈ることにした。
「ロードランの人間はみんなお前みたいにお喋りなの?“有閑そう”な戦士」
「おっと、口は随分達者だな。いつまでその威勢が持つか…楽しみだ。持って数日だろうがな…。さあ、行けよ。そのためにきたんだろう?この呪われた不死の地に。…ハハハハハ」
そう言って男は何が面白いのか肩を震わせ笑い出した。使命について事細かに説明したかと思えば皮肉を浴びせる…親切なのか不親切なのかよく分からない男だ。これから待ち受ける使命の旅を思えば、こんな歓迎は序の口なのだろうか。少なくともこの男の方が私より不死の使命に詳しいことは確かだ。ただで情報をくれるなんてありがたい。また何かあればこの男に聞くことにしよう。別れの挨拶代わりに手を振ると、男もひらひらとやる気なさげに手を振った。