目を開けると、見慣れぬ木目の天井が俺を出迎えた。艶のない暗色の木材はところどころ掠れており、相当な年季を感じる。そのまま残された木の節が、生物の瞳のようで不気味だ。
得体の知れない何かが高い音で軋み、少し離れたところでゴポゴポと湯の煮える音がする。蒸された熱い空気が頬をしっとりと濡らす。嗅ぎ慣れない薬草のようなツンとした匂いが鼻を通り抜け噎せ返った。
「う……どこだ、ここ……?」
視界がはっきりするにつれ、体の節々が悲鳴を上げる。頭は今にも真っ二つに割れそうなほど痛み、首から下は碇にでもなってしまったみたいに重い。指一本ろくに動かせず、寝返りだって打てそうにない。意識を取り戻したことを後悔した。蒸気と汗とが混ざった水滴がつうと首筋を流れた。生温いその雫が皮膚を撫でる傍ら、俺は最後の記憶を思い返していた。
——何百羽もの海鳥たちが何かを恐れるように空を横断する。嵐の予兆だ。しかし船長は目的地を前に帆を畳むことはしなかった。「地図通りであれば間もなく島が見えるはずだ」と。今更、引くに引けなかったのだろう。食料はとうに底をつき、引き返すには遅すぎた。みな死を覚悟していた。船長は遅かれ早かれ死ぬのなら、一発逆転の夢を見ようと笑いながら盃を掲げた。心なしか歌い慣れた舟唄がしんみりして聞こえた。そして、ちらほらと酔い潰れた者が出始めた頃、隙をつくように大嵐が訪れた。なす術もなく俺たちは激しい雨風に飲まれた。
そうか、俺は生き残ったのか。大嵐に飲まれた後のことは覚えていないが、恐らく溺れたのだろう。身体が芯から冷えている。そんな身体をじわじわ溶かすように、どこかから熱された蒸気が止め処なく送られている。湯を沸かすにしたって、やけに空気中の水分が多い。何をしているのだろう。そもそも、ここはどこだ。そんな問いに答えるように、石の床を叩く軽快な足音が近付いてきた。
「やっと起きた」
冗談みたいに大きな三角帽子が灯りを遮って影を落とす。その帽子の先は女の動きに応じてくしゃりと形を変えた。魔女帽……だよな。童話に出てくるようなシルエット。夢でも見ているみたいだ。帽子の下から覗いた顔は、存外、老婆ではなく若い娘の姿をしていた。蜻蛉の薄羽のように、透き通った淡い緑色の瞳がこちらを覗き込んでいる。
「あんたは誰だ? ここは……どこなんだ?」
女がこちらへ顔を近づけた。長い赤毛が顔にかかる。落ちてきた柔らかい毛先は、触れるか触れないかのところで弄ぶように頬をくすぐった。
「……私は魔女。そしてここは私の家」
至極当然だとばかりに魔女は淡々と答えた。
「魔女……? はは、まさか魔女が本当にいるとはな……。本物なら、光栄だよ」
幾艘もの海賊船が魔女を探して旅立った。俺だって例外じゃない。みな、不死の秘薬を求めていた。人魚の涙を使った薬を作れるのは、島の魔女だけだと。永遠の美、永遠の栄光を求める貴族達は高値をつけた。当然、偽物も多く流通した。だからこそ、島を目指すのは本当の浪漫と言われていた。そんなものはない、馬鹿馬鹿しいと呆れ顔で言われようと、船長は笑い飛ばし大海原へ出た。……これが夢じゃないなら、仲間たちの悲願はついに実を結んだのだ。
しかし魔女は俺の言葉に反応を示さず、ただ勢いよく掛け布団を剥いだ。そして点検でもするように腕や腹に指を置き、押したりつついたり。かと思えば急に優しく摩った。細い指はそのまま胸や首へと登ってきて、やがて額に当てられる。何故かは分からないが、触れた場所から痛みが引いていく。割れるような頭の痛みも、首から下の鈍い痛みもすっきりと引き、あっという間に上半身の自由を取り戻した。軽く拳を握り、指に力が入るのを確認する。
「あんたが助けてくれたんだろう? 治療までしてくれて……本当にありがとうよ」
手を差し出すが、魔女はそれを不思議そうに眺めるばかりで手に取る気配はない。何の意味があるのか?と言わんばかりだ。握手を知らないのだろうか。行き場を失った手を静かにベッドに下ろすと、魔女はそれを目で追ってそれからもう一度俺の瞳を覗き込んだ。
「助けた訳じゃない。海で拾ったの。まだ使えそうだから《直した》だけ」
まだ使えそうと言ったか?いやいや、それよりも《拾った》と言ったか?いずれにせよ、まるで物みたいな扱いだ。全く迷いなく放たれた言葉の冷たさに、ぞっとした。冗談を言っているようには見えない。その澄んだ瞳が至って大真面目に話していることを証明していた。
「まだ《使えそう》だって……? 俺を何に使うつもりなんだ」
「呪術の儀式に」
引いた痛みとは別の頭痛に襲われる。この魔女は一体何を言っているんだ。魔女にしては親しみを感じると思い始めていた顔が、急に恐ろしく見えてきた。姿は人間の娘とそう変わらないのに、根本的な常識の部分で人とは違う。人間とは別の生き物なのだと理解させられた。
「儀式って……何をするんだ」
「痛くないから安心して。少し呪文をかけるだけ。死にたくなければ、大人しく従って」
頭がくらくらする。魔女の言葉は要領を得ず、全く理解しがたい。なんとか咀嚼しようと頭を捻るも、何一つ今の状況には繋がらなかった。
俺は得体もしれない儀式に《使われる》のか?不安に駆られる俺を宥めるように魔女は「大丈夫」と付け加えた。何も大丈夫ではないが、どうしてかその声は耳馴染みがあり、奥底に眠る記憶を優しく揺り起こした。
——他愛もない話で笑う誰かの声。それを聞いて安堵と安らぎを覚えた遠い昔の記憶。太陽や灯火に照らされると炎のように燃える赤毛。結われた彼女の髪が戦場で解けて風に靡くのを見ていた。しかし《彼女》とは誰だ?この魔女との記憶か……?いや、そんなはずはない。ここに来たのも、魔女に会ったのだって初めてだ。それなのに、この既視感は……何なのだろう。既におかしな呪いでも掛けられてしまったのだろうか。
「なあ……あんたと俺、もしかして前に会ったことがあるか?」
目が合うと魔女はさっと顔を背けた。聞こえなかったふりなのか、本当に聞こえなかったのかは分からない。ただ背中を向け、大鍋をかき混ぜる動作は少しわざとらしく見えた。
ぐつぐつと煮えた鍋からは青い液体が覗いており、時折ごぷりと音を立て泡を弾けさせる。魔女はハーブハンガーから乾燥した花束を一つ手に取ると、指でそれを丁寧に解していく。触れる度にカサカサと乾いた音を立てた萎れた青い花は、粉状になってスープの中に沈んだ。それらが全て溶け切ったのを見届け、魔女は木のボウルに並々とスープを盛り付けた。
「さあ、儀式の前にこれを飲んで。まずは身体を温めないと」
手渡されたボウルを受け取ると、魔女は軽く手を振って魔法のスプーンを出した。粘性のあるどろりとした青い液体は、小さな渦潮のようにゆっくりと一人でに撹拌されている。ボウルの底の木目が透けて見えるほど透明で、旅立つ前に見た海岸の波の色に似ていた。スプーンで掬うと飛沫のように白い煙が舞って、波打ち際みたいだ。しかし、見た目がいくら美しかろうと毒が入っていないという保証はない。飲むのを躊躇い、ただ青いスープをかき混ぜていると、見透かしたように魔女が笑った。
「……毒入りじゃないか心配なんでしょう? それなら、ほら。見てて……」
俺の手からボウルを取り上げると、魔女は直接口をつけてごくりと飲んだ。水嵩の減ったスープはゆらゆらと水面のように穏やかに揺れている。魔女は唇の端から垂れたスープを指で掬い、それを綺麗に舐め取った。
どうやら毒入りではなさそうだが、実際のところ魔法でどうとでも誤魔化せるだろう。魔女は指先一つで、もう一度ボウルをこちらへ差し出す。押しの強さに苦笑を漏らすも、ボウルはそんなことお構いなしに俺の手の内に収まった。
目が醒めるような色をした魔女のスープ。飲みたいかと問われれば全く飲みたくない。しかし、指先一つで傷を治せる魔女が《死》を引き合いに脅しをかけたとなれば、抗う気は起きなかった。
「……それじゃあ、命の恩人に」
盃のように掲げて小さく傾けると、魔女はそれの一連の動作を不思議そうな顔をして見届けた。この魔女、さては乾杯も知らないな。儘よ、と縁に口をつけ勢いよくボウルを傾ける。流れ込んできたスープは鍋の中でぐつぐつと煮え立っていたはずなのに、口に含むと生温かく舌の温度とそう変わりない。口の中いっぱいに広がる甘ったるさは、砂糖付けの果実酒よりも濃く、思わず眉を顰めてしまう程だ。変に粘性を帯びているからか、喉越しが悪く酒を煽るよりも苦しい。なるべく味わずに済むよう一気にそれを喉の奥に流し込むと、魔女は満足げに目を細めた。
「これで満足か?」
ボウルを逆さにして最後の一滴まで平らげたことを知らせる。腹の中に収まった液体は段々と熱くなり内側からじわじわと身体を温めた。……効果は嘘ではないらしい。口の中に残る後味はどこかで味わった何かに似ている気がしたが、それが何なのかは相変わらず思い出せないままだった。
「じゃあ儀式を始めましょう」
その言葉を合図に、魔女は指の一振りで全ての灯りを消した。カーテンや屋根の隙間から僅かに流れ込む月明かりが辛うじて物の輪郭を見せていた。黒い装束に包まれた魔女の白い顔だけがぼんやり見える。その顔がすぐ横に迫り、ベッドがかすかに軋んだ。
「目を閉じて」
抵抗するのは無駄だと悟り、言われるがまま瞳を閉じる。隣に腰掛けた魔女は俺の手を取ると、小さな両手でそれを包み込んだ。次は何をされるのかと身構えていると、今度は首筋に短く生温い息がかかる。「……揶揄ってるんじゃないよな?」と小さく問うと、魔女は厳かな口調で「静かに」とそれを制した。
首筋から耳元まで上がった魔女の唇が小さな吐息を漏らすたび、生温い風と呼気の湿気を感じて背中がぞくりと震える。くすぐったさに身を捩りたくなるのをぐっと堪える。少しして、魔女は聞き慣れない呪文のようなものを唱え始めた。少し間違えば耳と唇が触れてしまうのではないかという距離に、心臓が早鐘を打つ。これすら儀式の一環なのか、無関係の戯れなのか分からない。ただ、この気まずい時間が早く終わってくれと願うばかりだった。
その呪文は、母の子守唄や聖女の祈りのような曖昧な旋律を持っていて、まるで歌を聞かされているようだった。それ自体はとても心地良いが、見ず知らずの魔女が囁く呪文だと思うと緊張せずにはいられない。これから俺は……どうなるのだろう。次に目を開けるときに自我を持っているかも分からない。それなのに、身体はこの声に身を任せることを拒まない。魔女への既視感と関係しているのだろうか。「《彼女》のことだ、きっと悪いようにはしない」と直感が告げていた。
魔女は優しい声色で耳慣れぬ言葉を囁き続けた。心なしか、段々と耳に掛かる温かい吐息がひんやりと冷たくなってきた。冬の朝に扉を開けた時のような冷たい風が耳の中を通り抜ける。温まった身体の中に刺すような冷気が流れ込んでくる。飲んで間もないスープの熱すら全て奪ってしまうような冷たさにもう一度背筋が震えた。
旋律が段々と遅くなる。言葉の意味は全く分からなかったが、なんとなく呪文の終わりが近いことを察した。
『……の魔女が命ず。……なき血肉に生命を。寄るべなき……に祝福を』
ようやく意味の分かる言葉が発された。そう思ったのも束の間、頬に柔らかい何かが押し当てられた。俺の勘違いでなければ、つい先程まで耳元にあったはずの唇が……そのまま俺の頬に押し当てられている。驚いて目を開けると、視界の端で瞳を閉じて口付けしている魔女の睫毛の一本一本が闇の中でいやにはっきりと見えた。何故かは分からないがこれにも見覚えがあった。長く船出に出ていた俺が、女の睫毛など見覚えがあるはずないのに。まして、口付けを受けるなんてこと、ある訳がないのに。
この魔女は……何をしているんだ?これは本当に儀式なのか?見間違いであってくれともう一度目を閉じる。だが頬には紛れもない柔らかい感触がある。そうして口付けが音もなく離れた時、分かたれるべきでない半身を失ったかのような空虚さと、魔女の残したぬくもりだけが頬に取り残された。
「これで儀式は終わり。気分は?」
魔女は何食わぬ顔でこちらを見ている。俺は戸惑いながら、残されたぬくもりを確かめるように指先で今しがた口付けされた場所をなぞっていた。意識しないように努めるほど、喉がカラカラに乾いて声が震えた。
「……気分、か? 何というか……こう、妙な気分だ。そもそも、本当にこれは……儀式なんだよな?」
薄暗さに慣れてきた目で魔女の顔を穴が開くほど見つめていた。意識するなと言い聞かせるほど、その薄い唇に目がいく。柔らかくて温かい感触が呪いのように付き纏っている。
「ええ、もちろん。儀式は成功したから、心配しないで。これから毎朝この呪文をかけていれば……」
「毎……朝? そりゃまた、随分手の込んだ儀式だな……」
自分を納得させるように、頬に触れていた手で顎髭を撫で付けた。生贄にされたり、命を差し出すよりずっとマシかもしれないが……こんなことを毎朝するのか?あれが口付けで間違いないなら、毎朝そんなことをするなんて、まるで仲睦まじい新婚夫婦じゃないか。そう思うと急に頬が熱くなる。どうして見ず知らずの魔女にこんなことを許しているんだ。
そもそも俺は、これが何の儀式かも解らない。それなのに、一度ならず毎朝付き合わされるというのだから……誰だって驚くよりも呆れが勝つだろう。あの大嵐を生き残った幸運と引き換えに、俺はとんでもない魔女に拾われてしまったようだ。
「俺はもう、好きにしてくれて構わないが……あんたはいいのか?」
「ん?」
「何の儀式か知らないが、手負いの海賊を家に置こうなんて、随分寛大じゃないか。俺が怖くないのか?」
すると、仮面でも貼り付けているかのように無表情だった魔女が、突然顔をくしゃくしゃにして笑った。
「あはは、怖いわけがない」
まるで赤子を相手にするような反応だ。それもそうか。黒魔術か呪術か知らないが、怪しげな呪文で人の命を容易く弄ぶことができる魔女が、海賊如きを恐れていたら呪いなんて手を出さないか。つまり、魔女にとって俺はその程度の脅威と見做されているようだ。
「さて、俺はここで何をしたらいいんだ?」
「それならもう決まってるよ。まずは庭に出て。……今日は洗濯物を干す日なの」
******
やけに手触りのいい柔らかい布に包まれていた。温かくて柔らかい。船に乗っていた頃は、こんな上等な布に包まることはなかった。弾力があって、ずっと触っていたくなる。冷え切って動かすのも辛い手足を寄せると、すぐに温まり関節を動かせるようになった。もうここから出たくない。しかし、全ての生命を目覚めさせる朝日が、優しく俺の眠りを妨げた。
「おはよう、海賊の男」
目を開けると、なぜか俺の腕の中にすっぽり収まって微笑んでいる魔女と目が合った。
「なっ! 同衾してたのか!?」
「……もともと私のベッドなのに」
よく見れば、下着同然の薄手のローブ一枚で俺に抱き付いている。これじゃ、まるで新婚夫婦じゃないか……先ほどまで触れていた妙に触り心地が良くて柔らかいものは……いや、それ以上考えるのはやめておこう。
とにかく、一刻も早くそこから離れようとするが、何故か魔女の方が俺から離れようとしない。
「た、頼む……離れてくれないか!?」
「……暖を取っているところなのに」
渋々俺の胸から離れた魔女は、欠伸をしながら寝癖のついた赤毛をブラシで梳かし始めた。心臓が痛いほどうるさく鳴っている。毎朝毎朝こんな起こされ方をするのでは、心臓がいくつあっても足りないのではないだろうか。
そういえば、儀式はどうしたんだ?確か毎朝呪文をかけると言っていたはずだが……。
「今日も……儀式をするんだよな?」
魔女はブラシに絡みついた自分の髪を引き剥がすのに夢中になっていたが、俺の言葉でハッと我に帰り、髪にブラシをくっつけたまま俺に手鏡を手渡した。
「? それならもう済ませたよ。ほら、見て」
「ん……? おい、なんだ、この痣は……」
鏡に映った俺の顔は少しばかり老け込んで見えた。いや、そんなこと今はどうでもいい。気にすべきなのは、頬についた唇の形をした赤痣だ。どう見ても恋人が戯れに口を付けて吸った時のような……人に見せる訳にはいかない痣がつけられている。まさか、昨日からずっとこうだったのか。その痣は指で拭っても取れず、試しに皮膚をつねってみてもそこ以外はちっとも色が変わらなかった。どういう仕組みかは分からない。恐らく魔法か何かでつけられているようだ。
「……俺、毎朝これをつけられるのか?」
「うん」
当然だ、という顔で魔女は頷いた。
「つまりあんたは、寝ている隙に人の頬に口付けて、布団に潜り込み同衾をしたのか……?」
「それは人聞きが悪い。起きる前に呪文をかけて、そのついでに少し暖を取ってただけ」
今のところ魔女はこいつしか知らないが、魔女っていうのはこんなにも常識が通じない生き物なのか。寝てる間に人の頬に……いや、起きている時とどちらがいいのだろう。毎朝呪文を掛けられるなら、寝ている間に済ませてもらう方がいいのか?変な気を回さなくていい分、楽なのかもしれない。しかし自分の知らぬところで儀式をされるなんて、あまり良い気はしない。
結局、俺はその日一日『呪いを掛けられるタイミング』などという、人生で一度も悩んだことのない悩みに頭を捻ることになった。
******
「おはよう、海賊の男」
まだ陽も差さない薄暗い明朝。隙間風でも入っているのか、とても寒い。船の上だってもう少しマシだと思うくらい身体が冷え切っていた。それなのに魔女は相変わらず下着と変わらない薄手のローブで、俺を見下ろしていた。
「この家、隙間風が入ってきてるぞ……後で直してやろうか?」
「それなら、大丈夫。さあ、儀式を」
魔女は震える俺から毛布を引き剥がし、爪先から足、腹……と全身をその手で触れた。魔女の手は温かく、触れた場所から寒さが治った。初日の痛みといい、治療の腕は確かなようだ。
「あんたの手は、いつも温かいな」
「……ありがとう」
そこからは昨日と変わらぬ手順で魔女が儀式を進め、俺の頬にはまた呪いのような魔女の口付けの温もりが残された。
魔女に拾われて推定五日目。俺の意識がないところで勝手に儀式や同衾をしないという約束を取り決めてからというもの、毎朝陽が登る前になると魔女が俺を起こしにきた。今のところ身体にある変化といえば、頬に目立つ痣が残されるくらいで……それ以外は全くというほど何の変化も現れなかった。嵐に巻き込まれ座礁したにしては怪我もなく、本当に俺は《儀式》などという怪しげな行事に関わっているのか?と思うほどだ。
魔女との奇妙な生活は、想像していたよりもずっと平穏な暮らしで、内心拍子抜けしていた。それどころか、慣れてくるとそれほど悪いものではない。
海に囲まれたこの島から出なければ、基本的に何をしても良く、三食の食事に風呂まで与えられた。酒は少なく、ベッドも一つしかないが、海賊船暮らしよりよほど良い生活だった。
魔女は日に一度俺を呼び付けて、小さな頼み事をした。魔女の頼み事というと、ろくな頼みではなさそうだが……一般に想像するような恐ろしい頼み事ではなく、一緒にこの本を読んで欲しいとか、隣で星を見て欲しいとか、舟唄を歌って欲しいといった他愛無い頼み事ばかりだった。まるで老婆が孫へ頼むみたいな頼み事だと揶揄ったら、そんな歳じゃないと怒られた。拗ねた後はしばらく口を聞いてもらえなくて機嫌を取るのが大変だった。
ともかく、悪い暮らしではなかった。強いて言えば、この生活がずっと続くのかと思うと漠然とした不安はある。だが魔女の言うとおり過ごしていれば命の保障もされ、無病息災で遊んで暮らせる。そんな夢のような生活を享受できるなら、その間はここで世話になろうと思った。
それに俺が出ていけば……きっとあの魔女は一人きりだ。
確かに、人間の常識を知らないおかしなところはあるし、人を儀式に使ったり、勝手に同衾をしたり……いや、やっぱり変な奴だな。ただ、そんなところも俺は少し気に入ってきていた。
彼女が寂しい思いをするのが目に見えていたから……なんとなく放っておけなかった。
******
「……そういえば、あんたって普段どこで寝てるんだ?」
取り込んだばかりの二人分の洗濯物を畳んでいた。天日干しで乾いたシーツはとても肌触りと香りが良い。これを畳んだ後に顔を埋めるのが俺の日課になっていた。
「椅子の上」
「……椅子!?」
振り返った先にある椅子は、ロッキングチェアのような肘掛け付きの立派なものではない。少し古びた、丸太を切り出しただけの足場のような椅子だ。本来、椅子の用途で作られているかも分からない。いずれにせよ、寝心地を保証されているものではない。大人一人が座れるだけの無骨な椅子だ。
「いつからそこで……いや、俺が来た時からか。本当にベッドはこれしかないんだな……」
かれこれ数週間は一緒に暮らしている。一瞬で血の気が引いた。客人の分際で俺は魔女からベッドを奪っていたらしい。それもこれも、恐らく同衾を禁じたからだろう。
「それなら、俺が今日からそこで寝よう」
「それはできない。儀式の関係で、あなたの寝床は変えられない」
儀式の何が関係しているのか問いただしたかったが、嘘をついているようには見えない。本当に儀式に関係しているのだろう。
「……そう、なのか。なら……」
何となしに頬に触れる。魔女の儀式の証が指先を僅かに温めた。最近は、考え事をするときにこの痣に触れるのが癖になっていた。
「あんたさえ嫌じゃなければ、今日から一緒に寝ないか?」
俺の提案に、魔女は目をぱちくりさせた。魔法の箒が床のゴミを履くのを止めてしまった。暖炉の火は小火を起こしそうな程燃えている。我ながら突飛な提案だとは思うが……他に良い策も浮かばない。女を椅子で寝かせて自分だけぬくぬくと毛布に包まるよりは、良いだろう。
「同衾は嫌じゃなかった?」
「もうあんたとは家族みたいなもんだから、気にしないよ。それに、最近寒いしな。あんたはほら……温かいだろう?」
「……分かった」
「そうと決まれば、早速シーツと毛布を替えてくるよ。ああ、そうだ。すまないが……お湯を沸かすようポットに伝えてくれないか?」
この後は、魔女が好きな紅茶を入れて休憩にしよう。最近、うちの魔女は何やら小難しい顔で奇妙な革表紙の魔術書と睨めっこしてばかりいる。寝食を忘れてのめり込むのはいいが、生活習慣が乱れ切っていて朝の儀式も忘れる次第だ。相変わらずどこから吹いているのか分からない隙間風で、彼女の治療がないと寒くて起きられた試しがない。
それも、同じベッドで眠れば変わるだろうか。
******
木の食器に残る水滴を拭きとりながら、庭の花を摘む魔女の後ろ姿を見ていた。この頃の彼女は、相変わらず不気味な魔術書を片手に、ぶつぶつと独り言を唱えている。俺が側に近寄っても気に留める素振りなく、一心に書物を漁っている。
一度、その書物に何と書いてあるのか?と尋ねたことがある。魔女は目を丸くし、何も言わずただ首を振った。俺の知ることではないと。それはそうだ。俺は彼女の儀式の道具だ。知られては困ることもあるだろう。だから邪魔はしない。ただ、俺は生活に馴染む中で魔女を知りすぎてしまった。機嫌の良い時に口ずさむ鼻歌や、長い髪を編む横顔が、頬に印された儀式の証と同じくらい、深く身体に刻み込まれてしまったのだ。同時に、もっと知りたいという渇望が目覚めた。彼女が関わることなら全て知っておきたい。いつの間にか植え付けられたこの感情を、呪いを言わずして何と呼ぶだろう。
彼女への興味は、俺を幼い子供のように変貌させた。
「なあ、何してるんだ」
「見ての通り。花を摘んでる」
彼女は煩わしそうにしながらも、いつも律儀に俺の問いに答えた。
「その花は何に使うんだ」
「儀式に」
「あんた、花は好きか?」
「……分からない。あなたは好きなの?」
「その花なら、好きになってきたよ。あんたがたまに作るスープに入っているからな」
魔女は怪訝そうに眉を寄せ、こちらを見た。目を離した隙に、花の棘が指に傷を作る。
「っ……」
「大丈夫か」
細く白い指の腹に赤い線が走った。溢れ出した血が雫を垂らしているのに、魔女はただ茫然とそれを眺めている。
「おい、治癒しないのか?」
「魔女は、自分に魔法を掛けられないの」
ぽたぽたと腕を伝って落ちた血が青い花弁を濡らす。花は変色して真っ黒に染まった。腰に巻いていた布をほどき、その手に巻きつけていく。魔女は不思議そうにそれを見ていた。
「何してるの」
「何って……あんたの手当だ」
「放っておいてもいいのに」
どうせ痛くない、と魔女は強がる。——あれ、いつか前にもこんなことがなかったか。
「あんたが良くても、俺が嫌だよ」
魔女の血を吸い込んだ布の端を結んで、そこにそっと口付ける。
「それは何?」
「おまじないだ」
魔女から見れば何の意味もない動作。それがよほど可笑しかったのか、魔女は肩を震わせて笑う。…やっと気難しそうな顔が緩んだ。あんたはずっとそうしている方がいいのにな。
******
ただひたすらに寒い。海の中に投げ出されるより、もっと冷たい。身体が動かない。早く誰か起こしてくれ。震える指を精一杯伸ばして、やっと掴んだのは朝の空気で冷え切った冷たい布だけだ。彼女はどこだ。暗くて、冷たくて——早くしないと、寒すぎて死んじまう。光が遠のいていく。闇の中に沈んでいるのか?息が吸えなくて、もうダメなんだと諦めかけた時、頬に温かい熱が注がれた。
「——起きて」
印が熱を持つ。反対の頬に温かい手が添えられる。ようやく吸えるようになった息を吸い込み、深く吐く。心臓が動いている。血が通い、俺は確かに生きている。
「おはよう、あんた」
暖炉の火と同じ色をした赤毛が顔にかかる。腕を伸ばすと、魔女は何も言わずに俺の腕の中に身を寄せた。その髪に埋もれて、香草や花の匂いを嗅いでいると、嘘みたいに寒さが和らいだ。
「少し痩せたか? 軽くなった気がする」
「起こしてあげたのに、失礼な男」
魔女は抱擁を解き、信じられないものを見るような目でこちらを見下ろす。
「俺は軽くても好きだぞ」
「……そんなことはいい。朝食がまだなの。シチューを作って」
「シチューくらい魔法で簡単に作れるだろうに。さては俺のシチューが気に入ったな?」
魔女は帽子を被り直し、椅子の上で脚を組み魔術書を読んでいる。魔法を使う気はちっともなさそうだ。図星の癖にと笑いながら鍋の前に立つ。魔女の好みは知っている。好き嫌いは少なく、野菜や香草は沢山の種類が入っているほど喜ぶ。濃い味付けと出来たてが好み。毎日飽きもせず俺にシチューを作らせて、そりゃ旨そうに食うもんだから……俺も段々と料理が好きになってきた。魔女はどんなに忙しそうにしていても、朝食だけはしっかり食べ切る。団欒の時間に欠かせないのがこのシチューだ。
「ほら、出来たぞ」
くるりと魔女帽の先が翻る。足取りが少し弾んでいる。好物を前にすると人も魔女もそう変わらない。船乗りの男も怯むようなスピードであっという間に一皿平らげた魔女は、魔術書を開いたまま、満足そうにうたた寝に就いた。食べてすぐ寝るなってあれだけ言ったのに。
まあ、今日くらいは……いいか。穏やかな寝息を聞きながら、こっそりと魔術書を覗き込んだ。見知らぬ文字、怪しげな魔法陣。乾いた血がこびりついたページの隅に、青いインクで不可思議な文字が並んでいる。《死霊術》。習った覚えはないのに、そう読める。禍々しい文字の下には沢山の走り書きがあって、目を凝らして辛うじて読めたのは《魔力が足りない》という一言と、シチューの具に使った材料のリスト。嫌な予感がした。でも読み進めるのを辞められない。ページを捲っていくと、ついに冒涜の儀式の手順が現れた。それは俺もよく知るものだ。仕上げは魔女の口付け。——そうか、そうだった。あの嵐の夜、俺は。
そうすべきだと分かっていても、起こして真相を尋ねる勇気がない。ただ、眠る魔女の顔色は出会った時よりも明らかにやつれていた。勘違いじゃなかった。妙な夢も、既視感も全部。
本を閉じて、いつも通り皿を洗うことにした。きっとこれが魔女と過ごす最後の日になる。
******
遠い昔、炎に焼かれながら願った。もし生まれ変われるならもう一度《誰か》に恋をして、御伽話のような終わりのない幸せな暮らしをしたいと。もう名前すらとうに思い出せない《誰か》と星を眺め、そのまま隣で朝を迎える日々を夢見た。全てが灼け溶けて灰になる中、焦がれた美しい夢だけがただその場に取り残された。
純粋で強すぎる願いは、呪いとして成就した。二つの魂は流転を繰り返し、何度も出会って惹かれ合った。けれど、炎に身を焼べた代償か、それとも途方もない数の命を狩った罰か、夢を叶えるには至らず灰に還るばかり。そうして、何度目かの生を貰い受けた時、叶わぬ願いに身を焦がす私自身が、流転の呪いそのものになった。今度の私は魔女だった。
御伽話はいつも魔女に厳しい。ようやく探し当てた運命の相手は、出会った時には既に死体だった。とうに冷たくなっており、魚は餌と認識していた。片目と腑を食われた空っぽの亡骸が海を漂っていた。何の因果か、男はまた途方に暮れる夢を追いかけて、儚く命を散らしたようだ。
散らばった体を全てかき集めてベッドの上に魔法陣を描いた。愛する男ともう一度言葉を交わせるなら、どんな手段でも構わない。死霊術によって仮初の命を与えられた男は、冷たい身体のままもう一度呼吸を始めた。
ありったけの愛を込めて、仕上げの呪いを掛けた。在りし日の体温は魔女のスープで。心臓を動かすのは、遥か昔世界を焼いた残り火。空っぽの身体を満たすのは幸せな記憶。それさえあれば彼は生きていた頃と同じように身体を動かせる。けれど、どんな魔法にも制約がある。黒魔術は術者の本当の名を知られたら解けてしまう。だから魔女は呪いを掛けた相手に、決して名前を知られてはいけないのだ。
同じ床で目を覚まし、二人で星を眺めたり、花冠を作ったり、草むらに横たわり本を読んだり、一緒に食事をしたり。たとえそれが仮初の幻でも、束の間の幸福を大いに楽しんだ。何百年も超えてようやく叶った悲願の夢は、思い描いていたよりもずっと居心地が良くて……一体どこで終わればいいのか分からなくなってしまった。ありもしない物語を書き続け、終わらない夢を見る。まだ余白があればいくつも続きを書けたのに、いつまでも二人が幸せに暮らすことを書く前に、羊皮紙が先に尽きてしまった。二人分の魔力を燃やす身体に限界が近付いていた。
いくら魔女とて、生命を冒涜する術を使うには尋常ならざる魔力を消費した。骨が軋み、虫が血管を食い破り、頭の中を蛇が這い回る感覚に襲われた。それでも毎朝死霊術を施した。この夢を終わらせてしまうわけにはいかなかった。
「……なんだか今日は、特に顔色がすぐれないな? どうかしたのか」
「朔の夜だからでしょう。月明かりが少ないと、暗く見えるから」
「……そうか。俺の勘違いならいいんだが」
水面に映る歪んだ星空に手近にあった流木を投げ込んだ。どぷんと小気味良い音を立てて波はそれを容易く飲み込む。海上を泳ぐように星々は大きく揺らめいている。対照的に、私の心は凪いでいた。もうすぐそこまで夢の終わりは近付いているというのに。
「なあ、ずっとあんたに……話したかったことがあってな」
「何?」
「あんたと出会ってから毎晩ずっと、不思議な夢を見ていたんだ。夢をみるたび俺は違う人生を歩んでいて」
「……そう。変な夢」
「ある時は烏。街から街を自由に飛び回って何かを探していたんだが……結局見つからないまま、死んでしまってな。またある時は、コソ泥だった。王家の財宝を盗んだ罪で投獄されて……やっぱり死んじまうんだ」
柔らかい風が流木の向きを変えた。
「……悪い夢ばかり。よく眠れる魔法を掛けようか?」
「いや……ここからが面白い話でな。今日見た夢で、俺は呪術師だった。あんたみたいな感じで、ちょっと怪しい装束を着てな。火を自由に扱えた。術の源流の魔女を探していたんだ」
「ふうん」
「結局魔女が見つかったかどうかは覚えてちゃいないんだが……そこにな、居たんだ。あんたが」
空と水面の上を星が駆けた。それは、いつかどこかの国で、盗人が盗んだ星にとてもよく似た光を宿していた。
「それで思い出したよ、全部。俺はずっと……あんたを探してたんだ」
また一つ星が落ちた。続けて、もう一つ。まるで夜空が泣いているみたいだった。
人の世では星が落ちる前に願いを三度唱えれば叶うというけれど、それは術者が魔女でも有効なのだろうか、と密かに思った。
「あの時……燃え盛る火の中で薪になった時、あんたと交わした約束を果たしたくて、俺は何度も生まれ変わった。烏になって空から探したり、あんたと同じ盗人になってみたりな。それを、今日やっと思い出したんだ」
「でも、それは夢でしょう」
「ああ。そして、俺たちの過去でもある。……なあ。きっとあんたは、ずっと覚えていてくれたんだろう? 一人で」
ああ、それ以上はいけないのに。物語が、私の夢が終わってしまう。黒魔術で作られた偽りの夜空が壊れていく。流れ落ちる星が全てを炯らかにする。黒塗りの夜空の一部が剥がれて、隙間から光が漏れ始めていた。
魔法が全て解けてしまう前に、どうにかしてこの男の言葉を遮らないと。
毎朝呪いをかける時のように、しかしいつもより厳重に、厳格に、強固に、慈しみと愛を込めて……頬ではなく、その唇にキスをした。男は笑ったままだった。魔女が呪いを掛けているというのに。
春の木漏れ日みたいに温かく柔らかい笑みを浮かべて、男は私を受け止めた。思っていたよりずっと強い力で抱きしめられて、海賊になると力が強くなるのか、とぼんやり思った。それとも永い時を経て私が忘れていただけだろうか……。毎朝私が呪文をかけるのを真似て、男は耳に口を寄せた。『こんなものは、おしまいにしよう』と囁いた。
嫌だ。私はまだ終わりたくない。やっと見つけて、二人で幸せになれたのに。この物語が終わってしまっても、また何度だって流転して、あなたに会いたいのに。そのためなら、何だって差し出すのに。どんな痛みにも耐えてみせるのに。
「楽しい夢だったよ。でも、あんたがそんな顔色になって頑張らなきゃいけないような呪いなら、終わらせないとだめだ」
「……師匠、」
「どれだけ時間がかかっても、必ずまたいつか会えるさ。俺は、少しばかり先に生まれてあんたを待ってるよ。ずっと」
「だめだよ、師匠」
「……ああ、そうだ。あんたさえ良ければだが……俺の身体は焼いて灰にして、海に撒いてくれないか」
「待って、お願い」
「……じゃあな。無事でいろよ、『—————』」
偽りの夜空に伸びたいくつもの亀裂が繋がる。ひびだらけの星空から、砕けた沢山の星が落ちた。止まっていた運命が動き出した。
魔法仕掛けの時計の針が止まり、黒魔術で動いていた暖炉の火が消える。池は砂で満ち、青い花畑は海岸になり、全てがあるべき姿に戻っていく。死体にかかっていた魔法が解けて、柔らかい唇も私を抱いていた腕も消え、乾き切った人骨と骨粉が散らばる。魔女の呪いが解け、夢から覚めてしまった。
私は、灰の山みたいな砂浜で愛する男の頭蓋を抱え、一人泣いていた。
******
何世紀もの流転を終えて定命に還った魔女は、太陽が降り注ぐ砂浜を歩きながら、穏やかな波の音を聞いていた。抱えた壺から灰を取り出して、海に撒いていた。
その胸には新しい約束を抱いて。
この身体がいつかまた灰になるまで生きて、呪いではなくあるべき形で生命の理に還ったら……星のように何度も燃えるこの魂が、冷めない熱が、またきっとどこかで二人を巡り合わせてくれる。
かつての魔女は、そう信じて眩い太陽に目を細めた。